日本人の心が分かる日本語
他人の目を意識する
人目
- 彼は母親の葬式のとき、人目もはばからずに大声で泣いた。(周囲の人のことを気にしないで)
- このポスターをどこか、人目につく場所に貼っておいて。(他人からよく見える場所)
- 彼はいつも人目を引くような派手な服を着ている。(他人の注意を向けさせるような)
- 会社を首になったが、人目がうるさいから、毎朝、出勤するふりをしている。(他人に知られていろいろ聞かれたりすると面倒だから)
- 電車の中で平気で抱き合うなど、今の若い人の行動には人目に余るもおがある。(他人の目から見ると不快に感じる)
- 犯罪者の家族は、人目を避けるようにして生活している。(周囲の人の視線を避けるようにして)
- 昔の恋人たちは、人目を忍ぶようにしてあっていたものです。(他人の視線を気にしながら)
- 二人は、人目を盗んで、密会を重ねていた。(人に見つからないようにこっそりと)
恥(はじ)
- 彼女を食事に誘ったのに、財布を忘れて恥をかいた。
- お金のために友人を裏切るなんて、君はなんという恥知らずな人間だ。
- そんな汚れた服を着て、みっともないからすぐ脱ぎなさい。
照れる
日本人は、人から褒められた時、多くの場合は「いやあ、それほどでもありません」とか、「いえいえ」などと言って、恥ずかしそうにします。このような態度を、「照れる」を言います。
みんなの前で失敗したら、「恥ずかしい」気持ちになりますが、みんなの前で褒められると、「照れくさい」気持ちになるのが日本人なのです。
- そんなに褒められたら、照れるなあ。
- あちらの綺麗な方は奥様ですか。照れないで紹介してください。
周囲に配慮する
遠慮
「遠慮」はもともと、「相手の都合や迷惑をよく考える」ことを指しますが、「遠慮する」と言った場合、多くは「よく考えた上で、何かをしない」ことを意味します。
- 先輩にすぐに連絡をとりたかったが、深夜だったので、電話をするのは遠慮した。
- 上司「今晩、A君と飲みに行くけど、君も来ないか?」 部下「すみません。今日はちょっと、遠慮しておきます」
- あの人はとても遠慮深くて、好感が持てる。(控えめで、慎ましい行動をする人)
- 初対面でプライベートな質問ばかりするのは無遠慮すぎる。(図々しい、厚かましい)
- 人のものを勝手に食べるなんて図々しい。遠慮ってものを知らないの?
また、日本人はよく「親しき仲にも礼儀あり」と言います。これは、どんなに親しい友人でも、相手の立場や都合を考えることはとても大切だということです。
- ここでタバコを吸うのはご遠慮ください。(x xしないでください)
気をつかう
「気をつかう」というのは、相手が嫌な思いをしていないかどうか、色々と考え、注意を払うことです。
- A「これ、旅行のお土産です。どうぞ」 B「すみません、気をつかっていただいて」
- 会議の席で社長が間違ったことを言ったが、みんな気をつかって知らないふりをした。
- お客さんに気をつかいながら食べる豪華な接待の料理よりも、家族と気楽に食べる食事のほうがおいしい。
- 気をつける:注意力を働かせる
- 気を揉む:あれこれひどく心配する
- 気を配る:さまざまなところに配慮を加える
- 気を回す:必要以上に考え、想像する
- 気疲れする:気をつかいすぎて疲れる
- 気に病む:心にとめてあれこれ悩む
- 気が置けない:気をつかう必要がない
人並み
「人並み」は文字通り「人と同じぐらい」という意味です。「人並みの生活」「人並みの暮らし」「人並みの能力」というように使います。
- お金持ちにならなくても、人並みの生活ができれば十分です。
- 人並みの給料さえもらえれば、出世しなくてもいい。
空気を読む
この場合の「空気」とは、「その場の雰囲気や周りの人の気持ち」、「読む」は「考える・推測する」という意味です。つまり、「空気を読む」とは、周りの人の気持ちを考えて、その場に合った行動をすることです。
- この忙しい時期に自分だけ休みたいなんて、ちょっとは空気を読めよ。
「空気を読む」に似た言葉に、「相手の腹を読む」という言い方がある。
人間関係を大切にする
付き合い
「付き合い」はもともと「交際する」という意味ですが、人との交際を大切にするということから、「自分の都合よりも相手の都合に合わせて、その人と一緒に何かをする」という意味も持つようになりました。
- 山田さんは十年近く付き合った彼女と、最近別れたそうだ。
- 疲れていたので早く帰りたかったが、先輩に付き合って飲みに行った。
- 父は取引先とのお付き合いで、毎週末ゴルフに行っている。
- あいつは付き合いが悪いから、もう誘うのはやめよう。
愛想
「愛想」とは、相手からよく思われるような態度のことで、具体的には挨拶や言葉遣い、表情などを言います。
- この店の店員は、みんなニコニコしていて愛想がいい。
- 鈴木先輩はいつも無愛想だから、声をかけずらい。
- 彼女は愛想がいいばかりで、肝心な時には助けてくれない。
「愛想笑い」は「本当に楽しいとか、面白いとか思っているわけではないが、相手といい関係を保つために無理に笑う」とこです。
- 課長は部長の機嫌を伺って、いつも愛想笑いをしている。
「愛想が尽きる・愛想をつかす」とは、相手に対して好意を持っていたのに、何かが原因でその人に親や好意を持てなくなった、という意味です。
- 何度も借金を頼まれて、彼には愛想が尽きた。
礼儀
- 隣の家のご主人はしつけが厳しいので、子供たちは皆礼儀正しい。
- 新人なのに先輩に挨拶もしないで帰るなんて、なんて礼儀しらずなやつだ。
本音と建前
誰もが賛成するような公式的な意見や原則を「建前」と言います。その人が本当に思っていることは「本音」と言います。
- A社が今度新しく始めるサービスは、建前では顧客のためと言っているが、実際は社内の事業改革が目的のようだ。
- 会議に社長がいると、参加者はみんな建前ばかりで、なかなか本音を言わない。
建前ばかり言っていたり、逆に本音のぶつけ合いだけでは、いつまで経っても議論が前に進みません。そこで、事前に参加者の意見を聞き、対立が表面化しないように調整を行い、会議が始まる前に大体の方向を決めておくこともあります。これは非常に日本的な方法で、「根回し」と言われているものです。
普通、日本人はそう簡単に本音を言わないと思われている。だから、本音を言うことを、「本音を吐く」とか、「本音を漏らす」などと言うのである。
おかげさま
「おかげさま」というのは、もともとは、神社やお寺に助けを求めてお願いに行き、いい結果になった時、神様や仏様に感謝して使う言葉でしたが、現在では、人から援助や協力を受け、いい結果が生まれたことに感謝して言います。
よくない結果や影響を受けた時に、不満や皮肉の意味を込めて使われることもあります。
- 「A君が道を間違えたおかげで、十分で着くところを一時間もドライブさせられちゃったよ」
表現を抑える
控えめ
- 体の調子が悪い時は、お酒は控えめにした方がいいですよ。
- その選手は優秀したのに、言葉が控えめで好感が持てる。
自分の感情を抑えた、物静かな感じの人を「控えめな人」と言います。「控えめ」に近い言葉に「慎ましい」があります。
- 妻は、夫の後ろに慎ましく控えている。
頼まれもしないのに自分から積極的に出てきて口を挟んだりすることを「出過ぎる」という。さらに、本当はそれほど専門的な知識も経験もないのに、自分から解説したり、人にアドバイスしたりするような行為を「でしゃばる」と言い、そういう人を「でしゃばり」と言う。
さらに「しゃしゃり出る」には、自分お立場を考えないで、無遠慮に人の前に出てくるとか、関係ないのに口を挟む、などというイメージがあって、「でしゃばる」よりさらに強い語感がある。
- お前なんかが、しゃしゃり出る場ではない、引っ込んでいろ!
ほのめかす
自分の思っていることを直接はっきりと言わなかったり、態度や表情などで示すことを、「ほのめかす」と言います。反対に、はっきりと言葉にでして言うことを「あらかさま」だと言って嫌うことがよくあります。
- 上司から、職場の移動を仄めかされた。
- 彼女は彼と目が合うと、あからさまに視線を逸らした。
「ほのめかす」が行為であるのに対して、はっきりとはわからない、あまり目立つようにしない態度や様子のことを「さりげない」と言います。
- 彼女のさりげないおしゃれには、好感が持てる。
彼女のおしゃれがあまり派手で目立つものでなく、自然ないい感じだ、と言う意味であり。
- 課長はさりげなく部下に注意を与えた。
周りの人からはわからないように注意した、と言う意味で、課長の配慮が感じられます。
精神主義を好む
がんばる
「がんばる」は、本当は、「目標達成のために、困難に耐えて努力し続ける」と言う意味です。日本人が「がんばれ!」と言うのは、もっと努力するよう相手に命令するのではなく、「あなたを応援しています」と言う気持ちの表現なのです。
根性(こんじょう)
「根性」とは、苦しいことや辛いとこがあっても、それに負けたり諦めたりしないで、やり抜く意志、耐え抜く精神力のことです。
- あの子はちょっと苦しいとすぐに練習をやめる。全く根性がない。
- 売り上げ目標を達成できないのは、根性が足りないからだ!
- 勉強もしないでいい成績を取ろうなんて、根性の曲がった考え方だ。
- お前みたいな人間に教えてやることは何もない。根性を入れ替えて出直してこい!
性格が悪いことを「根性が悪い」とか、「根性が曲がっている」と言います。また、「よくない性格を元から改める」と言う意味で、「根性を叩き直す」や「根性を入れ替える」などの表現もあります。
「根性」と同じような意味で使われる言葉に「意地」があります。
無理
- こんな成績では、親が心配するのも無理はない。(当然だ)
- それは無理な相談だ。(できないこと)
- お忙しいのに無理を言ってすみません。(普通はできないような難しいことを要求したり、お願いしたりする時に使います)
- 体の調子がよくない時は、あまり無理しないでください。
- 少しぐらい無理してでも、絶対にこのしことは最後までやり遂げたい。
- ちょっと無理しすぎなんじゃない?たまには休んだら?
修行(しゅぎょう)
「修行」は、学問や芸術などを身につけるために、集中的にトレニングするくとを示すようになります。
- 一人前の寿司職人になるためには、少なくとも十年間は修行が必要だ。
「修行」は「練習」よりも、もっと厳しく、集中して行うもので、精神的な訓練の意味も持っています。
「武者修行」と言う言葉は現代では、どこか遠いところへ行き、何かを集中的に学ぶことに使われるようになりました、
- その音楽家は、ヨーロッパで二年間の武者修行をし、音楽家としての腕をさらに磨いた。
- そんな簡単なこともわからないなんて、まだまだ修行が足りないね。
職人になるために勉強することを「修行」というが、そのために、毎日ひたすら努力するのは「精進(しょうじん)」と言うのが相応しい。
武士道
戦争がなくなっても、それまでと同じように、社会の中で重要な地位を保ち、誇りある生き方をするために、武士としての理想的な姿、精神的なあり方が追求されるようになりました。それが「武士道」です。
- 現代の日本人は、武士道の精神を失ったと言われている。
- 死を恐れないのが武士道だと言われてきた。
日本人の価値観
品
- あの女優は、話し方に品があって好感が持てる。
- 彼女はハンバーガーを食べる時でも上品に食べる。
- そんな下品なテレビ番組を見るんじゃありません。
「彼女は品がある」と言った時、人によって思い浮かべるイメージは多少違うかもしれませんが、その「品」は、見た目がいいとか、綺麗だとかという表面的なものではなく、彼女の言葉使いかや態度、行動に表れた内面的な美しさをさしています。
- この着物は、他のと比べてデザインは地味だが、品があって美しい。
- 部屋に飾る絵は、派手なものよりも、品があって飽きないものがいい。
じっと自分の感情を抑えることができるような人、他人に心配りができるような人、そのような人の態度や行動の奥にある心の美しさが感じられて好ましいことを、「奥ゆかしい」と言うのです。
大和撫子(やまとなでしこ)
「やまと」とは、「日本」と言う意味の古い言葉です。「やまとなでしこ」はもともと、初夏に薄いピンク色の小さな可愛い花をつける野草の名前で、「なでしこ」とも呼ばれています。控えめな美しさのあるこの花を日本女性と重ね合わせ、美しくて理想的な日本女性の代名詞として「大和撫子」と言う言葉が使われるようになりました。
- 彼女こそ、まさに大和撫子、素晴らしい人だ。
- 結婚するなら、淑やか(しとやか)で家庭的な女性がいいです。
派手 · 地味
「派手」とは、「人目につく」と言うような意味で、人の様子や態度、行動についても使います。
- 彼はいつも派手なことばかりするので、上司はいつもヒヤヒヤしている。
- 芸能人は生活が派手だと思われているが、皆がそうとは限らない。
「派手」の反対は「地味」で、目立たない、抑えた感じのことを言います。「渋い色」「渋いファッション」「渋い男性」「渋い生き方」のように使った場合、「派手でなく、落ち着いていて、深い味わいがある」と言ういい評価を表します。
- 若いのにバッハが好きだなんて、なかなか渋いね。
「侘 · 寂」は一緒に使われることが多いのです。「わび」は、現代語で「侘しい」と言う形容詞があるように、貧しい、見窄らしい、物足りないと言うような、あまりよくないイメージの言葉でした。けれども、「自然なものや質素なものの方が美しい」と言う美意識が生まれ、「わび」として尊重されるようになりました。
一方「さび」は、現代語に「寂しい」とか「寂れる」などの言葉があるように、人気がないとか、静かで孤独だ、と言うような意味でした。しかし、世間から離れてひっそりと静かに暮らす生活や、古くて枯れたようなものの中に、本当の人間らしさや美を見つけ出し、それを「さび」と呼んだのです。
恩 · 義理
日本人は、どんなに小さなことでも、人が自分のためにしてくれたことを嬉しい、ありがたいと思い、いつまでも忘れないとこが大切だと思っています。これを「恩」と言います。お世話になった人にお礼やお返しをしないと、「恩知らず」と批判されることになるでしょう。
- 早く自立して、今で育ててくれた両親に恩返しがしたい。
- お世話になった人を裏切るなんて、なんて恩知らずなやつだ。
誰かにお世話になったり、助けてもらったりした時、その人に対して自分が受けた「恩」を返さなければいけないと思うように、当然しなければいけないことを「義理」と言い、その人に対して、「義理がある」とか「恩義がある」と言います。
- あの人には義理があるので、頼みを断れない。
- 後輩の吉田君はとても義理堅くて、旅行に行くと必ずお土産を買ってきてくれる。
- 忙しいのあまり、お世話になった人にずっと連絡ができずに義理を欠いている。
潔い(いさぎよい)
日本では、少しでも自分に悪いところがあったら、色々と言い訳をしないで、素直に責任を認めて謝罪した方がいい、と考えられています。このような態度を、「潔い」と言います。
- その会社の社長は、自社に責任があることを潔く認めて、謝罪した。
- 試合に負けて言い訳をするなんて、潔くない。
もったいない
- こんなに涼しいのにクーラーをつけるなんてもったいない。
- 試験の前なので、おしゃべるする時間ももったいないと思う。
- 彼のような優秀な人材を遊ばせておくなんて、実にもったいない。
普通、「もったいない」は、無駄なことに対して注意したり、批判したりするときに使われますが、次の例は、少しニュアンスが違うので、注意が必要です。
- あの奥さんは、彼にはもったいないような素晴らしい人だ。(彼に比べて奥さんは素晴らしすぎるので、彼に相応しくない)
- こんな高価のものをいただくなんて、もったいない。(自分に相応しくないものをいただいた、と言う謙遜の表現で、お礼を言うときによく使われます)